イスラエルの選挙

派手な戦争が一段落して話題から消えつつあるパレスチナ問題だが、2月10日はイスラエル議会選の投票日だ。今後数年のパレスチナ情勢を左右する重要なイベントであることは間違いない。The Economistの記事によると、支持率1位はネタニヤフ率いる右翼政党リクード。それを、リブニ率いるカディマと、バラク率いる労働党という、中道(労働党は今でも左翼なのだろうか?)穏健派が追いかける展開となっている。


ネタニヤフは最近改めてヨルダン川西岸地帯からの撤退はあり得ないと明言している。まぁ、いつものリクードのノリそのままなのだが。そもそも、西岸地帯に入植地を展開したのもリクードなので、彼らに西岸地帯の入植民を見捨てる選択肢などあるわけがない。とはいえ、ガザの入植民を力ずくで排除してガザからの撤退を果たしたシャロンも元はリクードの党首なので、リクードだからどうこう、という議論はしづらいのだけれど(ネタニヤフはこのシャロン路線に猛反対して、シャロンリクードから追い出そうとしたのだが、シャロンが先手を打って党を割ったために失敗に終わった。この割れた党の片割れがカディマへとつながる)。


ただし、現時点ではリクードは120ある議席のうち30程度しか押さえられない見込みなので、むしろ勝負は選挙後のどろどろの連立仲間捜しと言うことになる。そこで問題になるのが最近ダークホースとして成長著しい極右政党、リーバーマン率いるベイテヌ(我が家イスラエル)。リーバーマンはとにかく発言が過激で、最近も日本がらみの発言で日本人の顰蹙を買っている。適当に検索すればいくらでも出てくるが、典型的な人種差別主義者として悪し様に罵られる人物だ。


現在10議席強のベイテヌが躍進することになると、リクードとの連立政権という夢の右翼タッグが成立する。正直、せっかく安定しているヨルダン川西岸地帯ですら不安定化しかねない嫌なシナリオではある(とは言え、ベイテヌの躍進はリクードの票田を奪うことになるので、リクードとベイテヌ両方が躍進する可能性は低いというのがThe Economistの見立てだが)。


だが、どうもThe Economistを読んでいるとそれほど単純な話でもないらしい。ユダヤ教正統派(ニューヨークとかでよく見かける、もみあげを伸ばして黒い帽子をかぶっている人たち)を支持基盤とするリクードに対して、リーバーマンのベイテヌはユダヤ教の導師(ラビ)の権力を抑制する政策を掲げている(ラビを必要としない「無宗教婚(civil marriage)」を認めることなど)。現時点ではリーバーマンがネタニヤフを支持するかどうかすら不分明のようだ。


それ以外のリーバーマンの政策を挙げていくと、「no loyality, no citizenship」。Wikipediaでは『アラブ系住民の参政権を剥奪するよう主張』と書いてあるが、正確には、イスラエルに2割ほど居るアラブ人に対して、国家への忠誠の誓約と、軍務ないしはその他の義務(national service)の履行を求め、それが果たされない場合には公民権を剥奪する、というもの。また、西岸地帯の入植地を保持する代わりに、現在イスラエルの領土となっているところをパレスチナに割譲すると言う案も出している(入植地には宗教的、農業的に重要な地域が含まれているため、パレスチナ側がこれに応じる可能性はないが)。どうしようもなく極右なのは明らかだが、既知外というわけでもないようだ。


The Economistとしては、防衛大臣ラク(穏健派だが、今回のガザ侵攻でイスラエル人からの支持を固めた)率いる労働党と、リクードとの挙国一致政権を期待しているようだ(ドリームチームとまで書いている)。とりあえず、20年前のリクード政権のときのような、傲慢と軽率を絵に描いたような政権だけは勘弁願いたいところなのだが。



ところでハマスのほうはどうしているかと言うと、国連からの援助物資の食料を数百トン横領して国連をぶち切れさせている。これは単純なこそ泥と言うわけではなく、ハマスとしては「援助物資をガザ市民に供給するのはハマスであるべきで、国連はハマスに物資を供給すればいいのだ、国連はすっこんでろ(意訳:not to "become a political player in Gaza")、ということであるらしい。更にいえば、援助物資をハマスの支持者・協力者にだけ供給することで、自らの支持基盤を強化する目的もあるようだ。それを国連が拒否したので実力行使に出たものの、ぶちきれた国連が援助を停止してしまったので、慌てて軌道修正を図っている、と。本サイトで書いたとおり、ハマスの外交的孤立に改善の兆しは見られず、当面密輸ルートも限られるとなると、今後のハマスの戦略はかなり限定的になってしまうような気がする。